2017年1月31日火曜日

【講演備忘録】熊本地震倒壊建物調査リポート〔Part 2〕

他人様の著作物を勝手に使うわけにゆきませんので、自作のイラストを順次追加してゆく予定です。

■ここからは…
建築基準法令に定められたルールの問題ではなく、いわば木造建物を設計したり施工したりするときも、いわば「物理の法則にてらして」「避けるのが望ましい」さらには「避けるべきだ」という課題の問題ともいえるのですが、佐藤氏の検討結果をうかがうと納得のゆく話でした。

■この建物の場合…
・1階と2階の壁の位置がほとんど一致していないこと
・そのような場合には、建物が大きく変形することを防止するために力学的には不可欠な条件といえる、2階床の強度が十分でなかったこと
にあるようです。

■最初の問題点は…
1階の図面の上に2階の図面を重ねてみると一目瞭然で、2階の壁のうちほとんどが1階の壁の上にありません。
 やや乱暴にいえば、1階建ての建物の上に、まるで別の1階建ての建物がただ載っているだけで、「見かけの上だけ」は2階建ての建物に見える状態ともいえます。
 壁の位置が一致していようがしていまいが、地震(や風)で2階部分に加わった力は、何らかのルートで2階の壁(以下「壁」というのは、先ほどの、筋かいなどが設けられている壁と考えてください。筋かいなどがない壁は、力を伝えるという意味ではアテになりませんので)から1階の壁を伝わって基礎に伝わらなければ、建物は形を保つことはできません。
 2階の壁の下に1階の壁があれば、2階の壁に生じた力はそのまま1階の壁に伝わり、その力はそのまま基礎に伝わることになります。

■一方…
2階の壁の下に壁が無い場合、その力は、2階の床を通じて1階のいわば「手近な壁」に伝わろうとします。しかし、この「力を伝えてもらいたい」2階の床が柔らかければ、1階の壁に力が届く前に、2階の床を大きく変形させ、ひいては建物に大きな歪みを生じさせて倒壊したり崩壊したりする原因になってしまうわけで、kおれが第2の問題点なのす。

 しかも、パワーポイントのスライドによる図解を見ると、1・2階の壁の位置が一致している場所は、建物北側の中央部に集中しており、誰がみてもここをいわば「支点」にして、建物の南側が「振り子」のように揺れそうな状態であることが見て取れました
 佐藤氏の見解では、もともとが、現在の2階建ての木造住宅では、自ずから2階部分が、1階部分に比べて、壁(の密度)が多くなるために「固くなる」傾向があって、そのために、地震によって横方向の往復の力が加わった場合、いわば2階部分が揺れて1階を振り回すようになり、そのために1階が自力で回復できないほど傾いて倒壊することがあり、その場合は、倒壊した1階の上に、ちょうど1階層の高さ分(つまり、約3メートル強)横にずれる形でほぼ形を保った2階が載った形で潰れる、というのが、比較的新しい建物の倒壊するパターンなのだそうで、今回倒壊した建物のように、1・2階の壁の位置がずれていて、しかも、2階の床が弱い場合には、ますます、いわば「2階が1階を振り回す」ことは明らかで、このリスクが高まることは確かでしょう。

■加えて…
佐藤氏からご提供いただいたパワーポイントのプレゼンテーションを、1月の例会で倒壊の専門委員とプロジェクタを使って検討したのですが、建築専門委員から、次のような指摘がありました。
それは、この建物では、北側のほぼ中央部に階段があるのですが、スペースの都合からか、この階段室の部分が壁面から張り出す形で設けられていることです。

 これが何を意味するかというと、この部分では。1階天井裏言い換えれば2階の床のレベルの梁がつながっていないということです。先ほどのお話のように、今問題になっているのは2階部分の「揺れ」なのですから、この階段室の部分を境として、2階の床が東西バラバラに揺れやすくなり、ますます、建物の変形(ゆがみ)ご大きくなって倒壊のリスクが高まることになります。


2017年1月26日木曜日

【講演備忘録】熊本地震倒壊建物調査リポート〔Part 1〕

■先日…
株式会社M‘s構造設計の佐藤実代表取締役による、先の熊本地震による建物被害の調査結果に
ついての講演をうかがう機会がありました。

■中でも…
いわゆる「前震」と「本震」との2度、震度7の地震に遭遇した地域で、周囲の建物が倒壊するのを免れているのに、ある1棟だけ1階部分が崩壊してしまったのですが、その住宅の調査結果は、非常に示唆に富むものでした。

■ 「設計ミス」を疑うのが…
このような場合には当然の反応で、佐藤氏も、まずは、この建物の設計図書を仔細に検討したそうなのですが
 
・筋かい等の絶対量
建築基準法施行令46条に定められている「構造耐力上必要な軸組等」のことで、    壁(土台・梁と柱で形作られた通常は長方形の空間)の中に斜めに木材を設けて、この空間が平行四辺形に形が変わってしてしまうのを防止する筋かいのほか、土台・梁と柱の側面に、一定の板状の部材を、それぞれの部材ごとに定められた釘などで定められた間隔・方法で固定する方法で筋かいと同じ目的を達成する方法もあり、こちらは、令46条のほか
昭和56年6月1日 建設省告示第1100号 「建築基準法施行令第46条第4項表1(一)項から(七)項までに掲げる軸組と同等以上の耐力を有する軸組及び当該軸組に係る倍率の数値を定める件」 
に、筋かいと同様の性能があると認められる部材と方法についてのルールが定められています。

・筋かい等の配置(バランス)

筋かいなどは、建物が変形するのを防止するために、壁を「固くする」効果があります。
それだけに、この筋かいが建物の中のある部分だけに偏在していると、他の「固くない」部分だけが地震や強風のときに逆に大きく変形してしまうので、建物全体を歪ませてしまい、そのために建物が壊れて倒れたり潰れてしまうことがあります。
このことは兵庫県南部地震(阪神淡路大震災の原因となった地震)のときに大きな問題であることが明らかになり、その結果
基準法施行令46条第4項
平成12年5月23日 建設省告示第1352号「木造建築物の軸組の配置の基準を定める件」
によって、「四分割法」とか「4分の1ルール」と呼ばれる、筋かいなどが建物の中にバランスよく配置されているかどうかを確かめる方法が定められています。
 ・基礎・土台あるいは梁と柱や、筋かいの接合部の補強金物の設定
筋かいなどで壁を「強く」した場合、大きな力が加わったときに壁に回転しようとする力が生じますので、そのために、建物が基礎から持ち上がったりさらには外れてしまったり、土台・梁と柱の継ぎ目が外れてしまったりしたのでは、建物が目的の強度を保つことはできません。
    これも、兵庫県南部地震を契機に具体的なルールとして定められたのですが、
    令47条1項
    と、これに基づく
平成12年5月31日 建設省告示第1460号「木造の継手及び仕口の構造方法を定める件」
で、とくに筋かいなどが取り付けられた壁について、それぞれの壁の強さに応じて、土台・梁と柱の間やさらに必要な場合には、柱と基礎とを、一定の金物で固定しなければならないことになっています。
ただし、このルールの原則通りに金物を付けようとすると、建物が金物だらけになってしまうのですが、隣同士の壁が力を打ち消しあったり、建物自体の重さが壁の動きを抑え込んだりすることを考慮した、通称「N値計算」と呼ばれる方法が認められており、この方法で計算すると、金物をかなり「原則」よりも減らすことができます。
のどれをみても、建築基準法をクリアしていたそうです。

■そうなると…
次に疑うのは、これまた当然ながら「施工ミス」あるいは「手抜き」ということになります。

 佐藤氏は、facebookを通じて有志を集めて調査団を作り、現物を解体調査したそうです。
ところが、補強金物などは設計通りのものが所定の釘などで適切に取り付けられているうえ、基準法で要求されているわけでもない、1・2階を通じで1本でつないでいる「通し柱」についても、ホールダウン金物という部材で1・2階の間をつないで補強していたということです。

つまり、実際の施工の面でも、建築基準法違反はなし。

■ところで…
この建物が倒壊したのは、2回目の「本震」と呼ばれる地震のときで、1回目の「前震」直後にオーナーさんが撮った写真では、屋内の家具類は数多く倒れており、また、建物本体についても階段回りなどに大きな変形が生じていたようですが、倒壊は免れていました。

 その意味では、少なくとも前震では、「建物が壊れるのは仕方ないが、人の命だけは守る」という目的で定められている建築基準法のルールは十二分に機能していたことが証明されたともいえます。

 ある意味幸いだったのは、この時点ですでに建物の変形や屋内の被害が大きく、住み続けることができる状態ではないために、オーナーさんが避難していたために、2回目の本震での人身の被害を免れたことです。

 やはり、震度6強とか7の地震に遭遇したら「まずは、とりあえず避難」というのが鉄則ということになります(一時は不便な生活をすることになりますが、死んだり大けがをするより「マシ」なのですから)。

■しかし…
それはさておき、どうしても残る疑問は、周囲の建物が(実際には、壁の内部を調べて見ると大きく損傷しているのかもしれませんが、ともかくも)、同じように震度7クラスの地震に2度遭遇しながら倒壊だけは免れているのに、この家だけが倒壊してしまっているのはなぜか、ということです。

                                           〔結論と対策は続編で〕