思い返せば30年以上「欠陥住宅」なるものとお付き合いしていたのですが、ここ5年ほど前から、そろそろ、マトモな建築物と「も」お付き合いがしたくなってきていました。
幸い、一昨年ころから、三田用水という江戸時代から昭和40年代まで東京南部を流れていた用水の研究がご縁で、東京都渋谷区にある重要文化財旧朝倉家住宅についての、地元の方々による保存と活用に関する勉強会にお付き合いするようになったことから、文化財建築物の構造とか耐震補強について、少し本格的に調べてみなければ、と思い立ちました。
■といっても…
茅葺農家とか寺社については、大げさにいえば「いくらでも」文化財建築物はあるのですが、現代の一般住宅の源流、それも「町家〔まちや〕造り」と呼ばれる和風建築物の重文クラスの建物はそれほど数が多くはありません。
また、重文クラスの建築物に「手を入れた」ときには、その報告書が作られるのですが、その発行部数はおそらく数100部、せいぜい推定で最大1000部程度。と、いうことは、そのほとんどが、関係機関の書庫に眠ることになり、我々のような「アウトサイダー」がアクセスできるマーケットには、なかなか現れません。
■結局…
住宅しかも農家以外となると、
・比較的新しいので、報告書を作成するレベルの「手を入れる」事態になることが少なく、したがって、報告書自体が少ない
・報告書が、先に書いた理由から、一般社会に出回ることが少ない
ので、アウトサイダーにとっては絶望的な状態だったのです。
■そのため…
当初は、重文クラスの建物の資料は当面あきらめて、比較的入手しやすい、自治体レベルの文化財などについての報告書を、細々ながら集めてはいたのです。
とりあえず書庫から手近に取り出せた資料を例示すると
・かつては「青べか物語」で、今では液状化で有名な、千葉県浦安市の
「浦安の町家●旧宇田川家住宅修理工事報告書〔浦安市文化財修理報告 第一集〕」
同市教育委員会/〔増補版〕H10/02/27・刊
「漁師の家 旧吉田家賃貸住宅/魚屋 旧太田家住宅/たばこや 旧本澤家住宅 浦安市郷土博物館移築民家三棟修理工事報告書〔浦安市文化財修理報告 第十六集〕」
同市教育委員会/郷土博物館/H14/03・刊
【181121追加】
「浦安の三軒長屋 旧内田喜一氏氏所有3軒長屋修理工事報告書〔浦安市文化財修理報告 第十五集〕」同市教育委員会/郷土博物館/H14/03・刊
・国の史跡クラスだと
「旧島松駅逓所保存修理工事報告書」
北海道札幌郡広島町/H30/03・刊
※あのクラーク先生が農学校の学生と最後の別れを告げた場所です
など。
■なぜ…
この種の報告書が欲しいのかというと、現代の住宅にもつながる「はず」の、建物の構造についての「先人の知恵」を知りたいからです。
普通の建物を調べるなら、欠陥住宅の調査が典型ですが、床下や小屋裏〔屋根裏〕を覗き込んだり、果ては入り込んだりして、躯体〔骨組み〕の構造を調べたり、柱と梁がどうつながっているかを見ることが必要ですし可能です。
たとえ文化財建築物と「いえども」というより長い間保たれていた「だけに」、その躯体が、長い年月の間、そこに住んでいたり出入りしていた人々の命を地震や強風から護ってきたのですから同様なのですが、この種の建築物の場合、勝手に床下や小屋裏を覗き込むことは不可能です。
しかし、そのあたりが判らないのであれば、たとえ現地に行っても、当方にとっては「ただの家褒め」でしかなく(「見た目」はどうでもよいとまでは言いませんが「二の次」ですので)「交通費と時間の無駄遣い」に終わってしまうことが必定です。
このように、そのような場所に行くからには、「ここが見たい」というポイントを決めてから行く必要がありますので、その基礎資料を事前にみておくことがある意味不可欠なのです。
■しかし…
今年になって、ネットオークションに、本当にお宝ものの報告書が出品されるようになり、ほとんど狂喜乱舞状態で入手するようになりました
以下、入手順に
●重要文化財金剛寺 不動堂/仁王門 修理工事報告書
同修理委員会/S30/06・刊
東京都日野市・所在/康永元(1342)年(堂)推定江戸中期(門)・築
*要するに高幡不動の「お不動さん」のおわす(精確には「おわした」)お堂とその前面の山門
室町期創建の寺院ですので、現代の一般住宅とは縁遠いのですが、
この保存修理のときに、堂についていた江戸時代の飾り物をすべて引きはがして、創建時の室町時代の姿に戻したことが有名で、文化財の「復原修理」の考え方を知る資料として貴重なこと
京王線沿線にあってもともと心理的に身近なお寺さんで、今年の正月にお参りをかねて視察してきたこと
オークションのタイトルは「金剛寺」とあるのみのために、あの「高幡不動」と気づく人がいなかったようで、高騰を免れたこと
から落札できました。
●重要文化財 旧下ヨイチ運上家保存修理工事報告書
余市町(北海道)/S55/03・刊
北海道余市郡余市町入船町10番地・所在/嘉永6(1853)年・築
*交易所と松前藩の出先機関を兼ねたような用途に使われていた建物で、構造的には町家の系統を汲む現代住宅につながること
北海道では数少ない重文建築物であること
から入手
●重要文化財 熊谷家住宅主屋ほか五棟保存修理工事報告書
島根県大田市/H17/12・刊
島根県大田市大森町・所在/享和元(1801)年~・築
*世界遺産岩見銀山の中心地の一つ大森町にある豪商の店舗兼住宅
唐突に出品され、清水の舞台ものでしたが落札しました。
2分冊の厚さ5センチほどの報告書で、広大な店舗併用住宅に加え附属建物の藏など4棟のデータもあるので「読みで」というか「眺めで」があります。
■最後の…
熊谷家住宅のある、島根は家内の出身地。
また、その親類も大勢いる大田市の重文ということで、かねてから注目し探していた報告書でした(工事報告書ではないのですが、この熊谷家住宅については永く探している文献がほかにあるものの、それは未だに浮上してきません)。
とくに、比較的最近の修理工事だけに、兵庫県南部地震地震以降文化庁(さらには、会計検査院までもが*)力を入れている耐震化について、本文篇の巻末近くの「構造基礎診断及び構造補強計算書」は、文化財建築物の「いわゆる耐震補強」の考え方や手法を知るうえでありがたい資料でした。
*読売新聞平成30年10月21日朝刊39面
国宝・重文「耐震に疑義」380棟放置
検査院調べ 正式診断行わず
文化庁に改善要請
しかし、その主屋は、店舗併用住宅の範疇にあるとはいえ大規模過ぎて、先の旧朝倉家住宅のお手本としてはいわば「的がデカ過ぎる」。
というわけで、もう少し「手ごろ」というか「小規模」な建物の報告書を探している折に出品されたのが、
●重要文化財 小坂家住宅修理工事報告書
小坂良治/S58/11/30・刊
岐阜県美濃市2267番地・所在/安永元(1772)年ころ・築
でした。
【181121追加】
●重要文化財旧犬養家住宅修復工事報告書
岡山県/H04/03・刊
犬養木堂こと毅元首相の生家で、天保期(1830-1843)以前に建築されたと推定されている。
代々庄屋、大庄屋をつとめた家であり、桁や梁に製材された木材が多用されているほか、それらの仕口も現代につながる仕様の部分が多いので、参考になりそうである。
【181204追加】
●重要文化財旧太田脇本陣林家住宅 主屋・質倉 表門・借物倉 修復工事報告書
同住宅修理委員会/S60/12・刊
美濃加茂市所在の、幕末には中山道51番目の宿場である太田宿の脇本陣かつ庄屋・惣年寄をつとめていた、代々質屋・味噌屋・醤油屋を営んでいた旧家であり、桁に製材された木材を使用しているほか、丸太梁も表面が滑らかに仕上げられていて、現代の住宅に連なる町家造りの建物で、主屋は明和6(1769)年に建てられている。
■暇をみて…
読み込むのは、まだ先ですけど、熊谷家住宅のような構造補強にかかわるデータがあるとよいのですが。
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